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殺しのライセンス

田舎生活には必需品のアレ。

そう、車。

ワタクシ、免許はかれこれ13年も前に取得しているのですが、取得後の実際の走行距離は100mかという状態で、ペーパーがゴールドになり、ついには、乗れば必ず人が死ぬ(であろう)、そんな殺しのライセンスに昇格を遂げております。

教習費用が2万円安かったという理由で、ATじゃなくMTを選んでしまったため、ものすごい苦労をしながら取得。

ところが、当時実家にあったMT車と、教習で使っていたMT車ではクラッチの合わせタイミングが違い、自宅車庫から車を出す時、どこのサーキットだ!というくらい最高にフカしながら亀よりも遅くしか進まないという恐怖が積み重なり、ついには乗るのがイヤに。

というか、そもそも私は、車に乗ってはいけないという啓示を受けたことがあるのです。

あの日、私が見た羽衣の話をしましょう。
それは、自動車教習所での高速教習の日のことでした。

その日の教官は、年のころなら50代半ば。背は低く固太りの、実直で厳しそうながら落ち着いた雰囲気の男性でした。
右腕の肘から先が無いらしく、お召しになった長袖シャツの余り部分をズボンのポケットに押し込めており、左手にバインダに挟んだ評価表を持って、乗る前確認の済んだ私に「では乗って」と静かにおっしゃいました。

緊張しながらも一般道に出て、直線道路をしばらく走ると、遠くに黄色いスポーツカーが見えます。カブリオレというのでしょうか、ホロが付いた車高の低いタイプで、左手にあるコンビニかなにかに入ろうとウィンカーを出していました。

平日ということもあり、道路は空いています。

スポーツカーは歩道に人がいるのか、なかなか左折しま、キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!

教習車が自動的に止まりました。先生が「曲がらないかもしれないからスピードは落としてーーーッ!!!」と怒鳴りました。

先生、おぐしが乱れています。

畜生。先生が教官用ブレーキを踏んだということは、減点されたに違いありません。私は、これが世に言う「だろう運転」の恐怖か。と、自分が到達するまでにはスポーツカーは左折しきるだろうと思ったことを反省しました。

その後は順調でした。先生は、無口で静かな方ながら、見なし運転の癖がある私に都度、状況に合わせた「かもしれない」を提示し、なるほど、気をつけなければと思いながら高速道へと入っていきました。

滞りなく折り返し地点のサービスエリアまで来て、トイレ休憩を済ませ、さあ、出発です。

サービスエリアから出る時は、高速道を走る車の走行スピードに早めに合わせ、スムーズに邪魔にならないよう加速していく、これが先生の教えでした。

私は一息入れたことで緊張もほぐれ、スムーズに3速で側道に出るとアクセルを踏み込み4速へ。そしてミラーを確認し、大型トラックが追い越し車線にいることを確認して、一気に5そ、ガリガリガリガリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!

視界左手に、先生の袖が見えました。中身の入っていない右袖が、宙を舞っています。寡黙な先生が取り乱しまくりながら猛烈に驚いた顔で私を凝視している、そんな熱い視線もヒシヒシと感じます。

そうです、先生、驚きましたか?私は5速に入れようとして、サラッとギアをバックにブッこんだのです。

音にビビるやソソと5速に入れなおし、一瞬の減速はありましたが、後方車までの車間に影響はなく、事なきを得たものの、車内には呆れてモノも言えない時 特有の責め感の強いグラビティー高めの空気が充満していました。

先生が左腿で上手にバインダを持ち上げ、評価表に何か書き込みました。え?先生、もしや落第ですか?それとも遺書ですか?

あの日、車内で華麗に宙を乱舞した羽衣のごとき先生の右袖…。あれはきっと、オマエ、くそセンスないから運転とかやめとけマジで、という神の啓示だったような気がしてならないのでした。

かしこ